大判例

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名古屋高等裁判所 昭和30年(う)27号 判決

論旨は本件を検察官は横領の一罪として起訴したのに対し、原判決は之を併合罪として認定したことは審判の請求を受けない事件につき判決をした違法があるというにある。よつて案ずるに原判決が本件横領を併合罪と認定したことは所論の通りであるとしても、原判決は罪となるべき事実として「被告人は(省略)昭和二十九年七月二十八日頃より同年七月三十一日頃迄の間前後九回に亘り別表(省略)記載の通り岐阜市一番町佐藤伝雄外八名より集金した油売掛代金合計四万一千四百四十一円位を、前記片山商店の為業務上保管中、同年七月三十一日頃擅に岐阜市内で自己の用途に費消する目的で着服横領したものである。」旨の公訴事実をその儘判示していることは記録上明らかであつて、右公訴事実はその記載自体に徴すればやや曖昧であつて措辞妥当を欠くきらいがあるが、併合罪として起訴したものであると見られないこともないから、此点から原判決を非難する弁護人の論旨は理由がない。然しながら職権を以て調査するに、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書によれば、被告人は岐阜市長森手力特殊飲食店磯千鳥より遊興費約七千九百円の債務を負い、之が返済につき厳重な督促を受けかつ自暴自棄も手伝い、同年七月二十九日頃その月末の集金を着服して右遊興費の弁済に充当する決意をするに至り、原判示の如く昭和二十九年七月二十八日頃より同年七月三十一日頃迄に佐藤伝雄外八名より集金した合計四万一千四百四十一円位を業務上保管中、同月三十一日頃右決意に基き擅に岐阜市内において内金五千円を右磯千鳥に支払い、残金を所持し名古屋市、三重県湯の山温泉等において費消したことを認め得るから、被告人は同日頃単一の意思を以て自己の用途に費消する目的で着服横領したものであることは明であり、従つて横領の一罪と解すべきである。然るに原判決は之を併合罪として刑法第四十五条第四十七条第十条を適用しているのであるから事実誤認並びに法律の適用に誤があり、この誤は何れも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免がれない。

同第三点について。

(イ) 原判決が証拠として挙示する豊田優の司法巡査に対する供述調書に契印を欠くことは所論の通りであるが、供述調書に契印を欠くからといつて、この一事を以て調書を無効にすべきものであるという規定なく、又仮令契印を欠いていても、調書に記載の文字のインクの色彩、筆跡等より推してその調書の作成者が真正に作成したものと認められるときは、作成手続に違法があるとして之を無効とすべき理由がないところ、右供述調書は司法巡査が真正に作成したものであると認めることができるから、右供述調書を罪証に供した原判決に違法なく、論旨は理由がない。

(ロ) 佐々木邦秀の司法巡査に対する供述調書は記録五十四丁以下に編綴されており、かつ適法に証拠手続を経ていることは記録上明らかであるから、之を証拠に採用したことは違法でない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書に則り更に次の通り自判する。

(罪となるべき事実)

被告人は昭和二十九年一月四日頃以降岐阜市龍田町二丁目三番地片山寛一商店に雇われ、油の配達売掛代金の集金等の業務を担当していたものであるが、同年七月二十八日頃より同年七月三十一日頃迄の間前後九回に亘り佐藤伝雄外八名より集金した油売掛代金合計四万一千四百四十一円位を右商店の為業務上保管中、同年七月三十一日頃擅に岐阜市内において自己の用途に費消する目的で着服して横領したものである。

(裁判長裁判官 高城運七 裁判官 柳沢節夫 裁判官 赤間鎮雄)

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